謎解き日本一決定戦 – 決勝大会進出者の思考回路①【概説~マヂカルラブリー編】
おはようございます。
先ごろ「謎解き日本一決定戦Χ 2023」の決勝戦が地上波で放送されましたが、なんとこれに出演しておりました。
普段と違う名義で出場したのでややこしいですが、緑色のパーカーを着ていた京大生が僕です。
以下、本編の盛大なネタバレを含む記事となっているので、未視聴の方はご注意ください。
放送されてすぐネタバレ記事を書くのはどうなのか……とも思ったんですが、優勝者の名前がトレンド入りするぐらい話題になっていましたし、今回の記事は放送された映像と照らし合わせた方が面白いものになるかと思いますので、TVerで配信されているうちに仕上げてしまう方がいいと判断してこのようなタイミングで公開することにしました。
さて、今回の僕の順位は4位でした。
決勝進出者8人の中で見ると中庸な、予選参加者7万人の中で見るとえげつない成績となっています。
また表彰台に乗れなかった
今回の記事群では、僕がどのような考えのもと4位を勝ち取り、どのような考えのもと4位に終わってしまったのかということをなるべく詳細に書いていきたいと思います。
倒すべき敵は誰?
「謎解きの大会」に挑む動機は人によって様々だと思います。
勝ちたい、名誉が欲しい、賞金が欲しい、目立ちたいetc……
ただ、やはり謎クラと呼ばれる我々にとって「その場でしか解けない謎を自分の手によって解き明かしたい」ということは大きな目的のひとつになっていることでしょう。
こう考えると、我々プレイヤーが挑むべき相手はクリエイター陣だということになります。
彼らの挑戦を受け止め、正面から挑み思考を読む。そして解く。
一般的な謎解き公演をイメージすると分かりやすいですが、「謎解き」は作り手からの挑戦状であり、解けたか解けなかったかによって一喜一憂するものです。
出場者のおいたくさんは控室で「RIDDLERを倒すつもりでやっている」という旨のことをおっしゃっていたのですが、まさにこういうことだと思います。
(もちろん、作り手は「解いてほしい」という気持ちを持って制作することが多いので単純な敵対関係ではありませんが)
一方で、今回のように競技性のある謎解きでは、どうしても他のプレイヤーとの競い合いという要素が発生します。
また、スコアで競うものである以上、その場においてベストを尽くせるかという自分との戦いとしての側面も持つことにもなります。
特に、今回の決勝は敗退したらその先を体験できなくなってしまう形式のため、最初に言った「クリエイター陣を倒す」という目的を達成するためにも他者・自己との戦いが必須になってきます。
「解神」のような1on1のトーナメント形式であれば、目標を達成するために「目の前の敵を倒す」という要素を強く意識する必要があります。
しかし、今回の大会はLOCKボタンによるスコアアタック勝ち残りの形式です。
そのため、「特定の誰かを倒す」ことに主眼を置くべきではなく、「ひたすら生き残る」ということを意識する必要があります。
ですので、今回大会のファーストステージ・セカンドステージで僕は「自分が現在おかれている状況を確認し、敗退ラインより上に入る」ことを意識した動きをしています。
結果として準決勝を前に敗退する形にはなってしまいましたが、そこまでのステージで僕がどのような戦略を立てていたのか、ということを以下いくつかの記事に分けて解説していこうと思います。
※権利のアレコレがあるはずなので、放送中に出題された謎は直接記事に含めていません。配信などを見て確認しながら読むことをオススメします。
ファーストステージ・お笑い謎解き
最初のステージは「お笑い謎解き」でした。
形式は以下の通り。
- お笑い芸人のネタを見ながら、それに関連した謎を解く
- 全3問
- 残り時間が得点になり、不正解ならゼロ扱い(LOCKボタン)
- 下位3人が敗退
昨年のΧで存在した形式ではありますが、「昨年のΧでしか観たことがない形式」でもあります。
つまり出場者は8人ともあんまり慣れていないスタイルということになるので、この段階では誰が勝ち抜け誰が敗退するのか、自分は得意なのか不得意なのかということの予測すらあまりできません。
そのため開始時点での考えは「とにかく間違えないようにしよう」というぐらいのものでした。
ファーストステージ1問目 マヂカルラブリーの漫才
1問目はマヂカルラブリーさんの漫才を見ながら解く謎解きでした。
制限時間は150秒と長めですが、その間にノンストップで漫才が進行していくので休んでいる暇はありません。
シンキングタイム開始前に与えられた情報は以下の通りです。
- 「7つ集めるとなんでも願い事が叶うって言われている不思議な玉」を集めるので、最後の玉のありかを答える
- ひらがな5文字で答える
漫才の導入としては自然な形で(というか既存のマヂカルラブリーの漫才とほぼ同じ流れで)場面が説明されましたが、ここから取り出せる情報量はめちゃくちゃ多いです。
まず、「7つの玉の最後の1つのありかを答える」という情報から、この謎は「7つあるもののうち6つが列挙されるので、(途中で法則性を見抜き)最後の1つを推測して答える」という形式のものであると分かります。
「7つあるもの」にも色々あると思いますが(参考記事)、テレビで扱われる謎であり、150秒程度で正解者が出る問題であることを考えると、参照するべきものの難易度はそんなに高くないでしょう。
今回のテーマになりそうなものは曜日・音階・虹の色・都道府県関係(近畿地方の府県・7地方区分など)に絞られます。
続いて、「ひらがな5文字で答える」指定についてです。
一見すると解答の表記ゆれを防ぐための指定に思えますが、今回の解答は手元のタブレットにペンで書き込んで送信するという形式のものでした。
つまり、LINE謎などと違って解答判定はスタッフが目視で行い手動でマルバツを付けるため、多少の表記ゆれになら対応できるはずで、本来こんな指定は不要なわけです。
それなのに文字数指定が存在するのは「この指定が謎を早く解くためのポイントとなっている」からに違いありません。
解答の文字形式が指定されているために解答候補が絞られる、という展開は謎解きだとしばしば起こります。
例えば昨年の大会では、都道府県を答える問題で解答が「①②①③」であったことから問題を見ずとも「とっとり」を導き出すことができるようになっている問題や、ひらがな5文字で表記される都道府県が「とうきょう」しかないということを利用して解答を早く導くことができる問題が出題されていました。
今回もこのパターンでしょう。
以上を総合すると、「漫才の途中、玉を集めるシーンで提示されるものから今回のテーマとなっている『7つあるもの』が何かを突き止め、その中から『ひらがな5文字』で表記できるものが答えになる」というところまでをシンキングタイムが始まる前に推測することができました。
もちろん、本番の限られた時間でここまで理路整然とした攻略法を組み立てることができたわけではないんですが、落ち着いて分析して身構える程度の余裕はあったと思います。
そして漫才が始まります。
上記の通り「7つあるもの」に対する感度をビンビンに高めて聞いていたのですが、円陣を組んで探しに行くという設定の中に「みんな」という言葉がものすごく自然に溶け込んでおり、最初はスルー。
ドレミの歌だということに気づいたのは「ファイト」の段階ですが、この時点での思考はまだ「ドレミの歌が順番に出てきている?」でした。
「知らないうちにド・レを飛ばした?」「ミから始まってレで終わる順列?」といったことを考えていたのですが、前者なら「しあわせ」、後者なら「レモン」が答えになり、文字数の指定と釣り合いません。
その次の「幸せ」を聞いてようやく順不同でも良いことを理解しました(映像を見ると、ファイトまで僕は真正面を観ていますが、幸せの段階から急に動き始めます)。
このタイミングで解答状況(スタジオの低い位置に設置されたモニターに放送とほぼ同じ画面がリアルタイムで反映されていました)を見てみると、ようやく最初の一人が押したところ。
何かを慌ててメモ用紙やモニターに書き始めたプレイヤーも複数おり、自分と同じタイミングで解法に気づいた人が他にも大勢いるんだろうな~と思いました。
ここで僕には二つの選択肢が与えられました。
一つ目は、頭の中でザーッとドレミの歌を思い出し、真っ先に出てきた5文字のものを書く戦法。
二つ目は、ドレミの歌を書き出して、「5文字」だけで本当に確定しているのかを確認してから答えを書く戦法。
一つ目の戦法は「5文字」という指示だけで答えが1つに定まるということを信じる攻めの方法であり、二つ目の戦法は数秒を犠牲にしつつも確実に正答することを目指す守りの手段です。
結局5文字のものは「あおいそら」ひとつしかなかったのでどっちを選んでいても正解だったわけですが、この時の僕は二つ目の方法を選択しました。
ファーストステージでの僕の目的はあくまで「上位5人に入ること」。
上位5人に入ってしまえばその中での順位はどうでもよくなります。
最終問題のボーダーライン上であれば1秒2秒の差が命運を分けることもあるでしょうが、1問目の段階で早く解けた自覚があるのならそこで急ぐ必要は全くありません。
うっかり誤答すれば0点になってしまうため、ここでの優先順位は(攻めて上位奪取に賭ける <<< 確実に正解して点を稼ぐ)でした。
守りを選んだことにより「幸せ」のタイミングで気づいたのであろう集団(僕・けいわいさん・おいたくさん)の中では遅い解答になってしまいましたが、5位までが勝ち残るシステムなので1問目で2位3位との時間差がほぼない4位につけていれば十分です。
あとはのんびりしながら漫才を観ていました。
「お笑い謎解き」の戦術
ここで、今回の戦術を「お笑い謎解き」形式全般の戦術へと一般化してみます。
解答するタイミング・謎を解く速さを大きく3つに分けると、
① 神速(前提条件だけ~十数秒程度で解答提出する)
② 高速(ネタの前半部分で解答提出する)
③ 低速(ネタの後半部分~最後で解答提出する)
になると思います(もちろん時間配分は謎によって変わると思いますが、概ねこんなもんでしょう)。
①は、今回の漫才謎解きであれば(実際にやった人はいませんが)「7つあるもの」「ひらがな5文字」だけで「あおいそら」を確定させるようなやり方です。
誤答リスクがかなり高いですが、制作者の意図を見抜くことができれば意外と成功しますし、特にテレビ番組であれば映えるので、神速で解ける裏技を制作者が意図的に用意することは十分考えられます。
②の解き方をするためには、前提条件・ネタの前半部分で提示される例示を素早く解釈し、それをもとにオチを冷静に推測する必要があります。
今回であれば、漫才が海のくだりに入るより前にドレミの歌を見抜き、5文字で確定することに気づき解答することがこれに該当します。
③の段階まで来るとほぼすべての情報が開示され、あまり推測を行うことなく答えを導くことができます。
「普通の」謎解きを解くのと同じ状態ですが、ここまで来てしまうと得点がほとんど入りません。
LOCKボタンのシステムでは③と誤答がほぼ同じ扱いになってしまうため、次のステージに進むためには②以上がほぼ必須、つまり、謎が完成する前に先を予測して答える能力が求められるわけです。
かなり難易度が高く思えますが、開始前に与えられた条件の整理ができれば②ができるように制作されてはいるので、ネタの前半部分に制作者が用意してくれたヒントを確実に回収できるかどうかがカギになってきます。
逆に、③や誤答する人が複数いることを考慮すると、出題されるすべての問題で②ができればほぼ間違いなく勝ち抜けることができます。
今回の僕は1問目で②ができた自覚があったので、ここから結構落ち着いて臨むことができました。
ちょっとした裏話
- お笑いは好きなので、こんな場所でマヂカルラブリーの漫才を見れるんですか!?やったー!となってた。でももっとゆったり見たかったです
- 去年の最初のステージはガチ小謎だったので、いきなりバラエティー問題でびっくりした。せっかくテレビ局に来たんだからこういう「テレビ局にしかできない謎」をやりたいな~と思ってたので、これが最初なのありがたいです
- 出題中、みんな真顔で解いてるのに僕めっちゃ笑ってますね。能天気。歯が白い
- この収録とR-1グランプリの決勝が同じ日だったので野田クリスタルさんの激務に思いを馳せるなどした
- カットされてましたが、あの漫才が終わった後にマヂラブさんが「全然ウケない」「時間ぴったりに終わらせるのが大変すぎた」と文句を言って今田さんが「これを任せられるのはチャンピオンのお二人だけですから」となだめるくだりがあってめちゃくちゃ面白かったです
- 漫才が150秒ちょうどだったのは編集ではなく、本当にぴったりで終わってました。匠の技
このあとのAKI-MARUさんによる2問目・3問目では1問目以上に戦略的なプレイングをしているのですが、思ったより1問目のあとがたりが長くなってしまったので記事を分けようと思います。
次の記事はこちら。
ではまた。