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日本最古の謎解き、万葉集説

万葉集をご存知でしょうか?
特に文学について詳しくない方でも名前ぐらいは聞いたことがあるかと思います。

万葉集は奈良時代ごろから平安時代にかけて編纂されたとされる日本最古の和歌集です。
最近だと元号の「令和」の出典になったことが話題になりました。

この万葉集は「和歌集」です。
当時の皇族から農民まで、様々な人が書いた歌が集められており、全20巻、約4500首の歌から構成されています。
この万葉集の中に謎解き……というと誤解を生みそうなのですが、謎解きでよく見るような言葉遊び、いわゆる謎クラスタが好きそうなネタが色々使われているのです。

牛は「むー」と鳴く

※万葉集はまだまだ研究されています。ここに書かれていることが近いうちにひっくり返る可能性も十分あるので、その点はご了承ください。

まず大前提なのですが、万葉集は全て漢字で書かれています。
ひらがなが生まれるちょっと前の時代ですので、普段話すときに使っている「日本語」を表記するために大陸の漢字を利用する必要があったわけです。
(というか漢字を利用しているうちにひらがなに化けたというか)
現在よく見られる漢字かな混じりの歌たちは、1000年以上前に始まり今なお続く万葉集解読の成果なのです。

そして、この漢字の使われ方にもいくつかのパターンが存在します。
1つ目は、現代のわれわれが漢字を使うのと同じように漢字の意味を利用しているパターン。
「秋」と書いて季節の秋を示したり、「月」と書いて空に浮かぶ月を表したり。

2つ目は、漢字の音のみを利用したパターン。
「万葉仮名」とか呼ばれたりします。
この場合、漢字がもともと持っている意味はスルーされます。
例えば「秋」を表すときに「安吉」と書いたり、「月」を表すときに「都奇」と書いたり。
現代の「夜露死苦」に近しいものがあるかも。
音のみを拾っているので、1つ目のパターンと違って同じ読みの単語を表すときでも異なる表記ができたりします。
(ただし、上の例の「あき」と「つき」の「き」に使われてる漢字が異なるのにはもう少し深い理由があったりします。が、ここで説明すると話が脱線どころか横転してしまうのでその話はまたの機会に。)

そして3つ目が言葉遊びを利用したパターンです。
専門的な言い方だと「戯書」と呼ぶらしい。
具体的な例を見ていきましょう。

如是為哉 猶八戍牛鳴 大荒木之 浮田之杜之 標尓不有不

万葉集 巻第十一 歌番号2839

※七文字目の「戍」ですが、写本によって「戍」だったり「成」だったりと意見が割れているらしいです。どちらが正しいとは言い難いのですが今回は手元の書籍準拠としました。

全体的な意味は漢文を学習したことのある人なら何となく分かるかと思いますが、今回フォーカスするのはこの読み方、特に「猶八戍牛鳴」の部分です。
「猶」はそのまま「なお」、「八」は音で「や」、「戍」には「まもる」という読み方があり*、ここまでは普通に読めますが……
最後の「牛鳴」は「む」と読むのです。
全体で読むと「なほやまもらむ」という読み方になります。

なぜ「牛鳴」で「む」と読むのか(厳密にいうと、なぜ現代に至るまでの解読者たちががそう読むと判断したのか)は単純で、牛の鳴き声が「むー」だからです。

「ほんまか?」って感じですが、他にも例は色々あります。
例えば

喚犬追馬鏡

万葉集 巻第十三 歌番号3324より一部抜粋

これで「まそかがみ」と読みます。
現代では「真澄鏡」とか書くらしい。

犬の鳴き声が「ま」で馬を追うときの号令が「そ」……
昔の人はそう言ってたしそう聞いてたんでしょう。

極めつけは

馬声蜂音石花蜘蟵荒鹿

万葉集 巻第十二 歌番号2991より一部抜粋

「馬声」で「い」、蜂音で「ぶ」、石花で「せ」、蜘蟵で「くも」、荒鹿は「あるか」で「いぶせくもあるか」……
雰囲気だけ見ると解神の早押し問題っぽい……

少し雰囲気が違うものだと

山上復有山

万葉集 巻第九 歌番号1787より一部抜粋

これで「いで」と読みます。
そのタネは、「山」の上にまた「山」があるので「出」……ということだそう。
合体漢字だ。

ここまで来ると「儲」で「しんじゃ」と読んだりする言葉遊びとか、タコとハエのイラストを逆さまにして「答えは~」とかやる謎解きともう一緒ですね
謎制作者的な思考は奈良時代から存在してたんや……

そう考えると結構面白くないですか?
1000年以上も前の日本にこういう言葉遊びを仕掛けようとした人がいて、そして現代に至るまでの間に多くの貴族や歌人、学者の方々がこれを読み解いてきた……

他にも古典を調べるとこんな言葉遊びがたくさんあったりするので、機会があればぜひ紹介していきたいなと思います。
ではまた。

参考文献

  • 井手 至・毛利正守『新校注 萬葉集』和泉書院
  • 坂本信幸・毛利正守『万葉事始』和泉書院